日本の怪談を変えた金字塔「新耳袋 第一夜」すべてはここから始まった
著者の木原浩勝氏と中山市朗氏は共に関西出身。
二人は大阪芸術大学在学中に落語研究会で知り合ったそうです。
「新耳袋 第一夜」は今まで著者二人が育った関西で収集された話がメインなので半分以上が関西に関係したものです。
場所も千日前、近畿日本鉄道沿線、大阪芸術大学など関西人には馴染みの深い場所がたくさん出てきます。
また体験者も関西人なので随所に関西弁が飛び出すので、関西人には読みやすいです(笑)。
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「新耳袋 第一夜」の感想
※このグラフは個人の感想であり、すべての読者に当てはまるものではございません。
「新耳袋」は怪談本でありながら、圧倒的に不思議な話が多いです。
「え、なんで?」「だからなに?」というような不思議な話を収録しているのが「新耳袋」の魅力です。
「ほのぼの」はいい話やかわいい話です。
「新耳袋」にはちょっといい話や、笑える話も収録されています。
「くだん(件)」は牛の顔・女の体の妖怪の話です。
関西、特に神戸での目撃情報が紹介されています。
- 第一章 幼い時に見聞きした六つの話
- 第二章 大学時代に見聞きした七つの話
- 第三章 車や路上に出るものの十三の話
- 第四章 家族の中に出るものの十六の話
- 第五章 得体のしれないものの六つの話
- 第六章 写真やビデオに写るものの八つの話
- 第七章 狐狸妖怪を見たという十二の話
- 第八章 不思議な空間の六つの話
- 第九章 植物に関する三つの話
- 第十章 死んだ者に関する十三の話
- 第十一章 聖域であった三つの話
- 第十二章 くだんに関する四つの話
- 第十三章 百物語に関する不思議な二つの話
「新耳袋 第一夜」ハイライト
「第一夜」で印象深かった話・ものすごく怖い話を紹介します。
不思議で面白い話
第二十五話 峠のホットドック屋
K君たちが山陰地方へドライブに行ったときの話。
夜、鳥取県の県境に近いある峠にさしかかったとき、行く手に赤い灯が見えた。
それは、上り坂の途中にある手引きの屋台だった。
屋台には“ホットドッグ”と書かれた赤いちょうちんとのれんが掛かっていた。
のれんの奥に椅子があって、カップルが腰掛けている。
K君たちの車が屋台の横を通り過ぎたとき、そのカップルは片手でのれんをめくり、片手にホットドッグを持ったまま、なぜかぽかんと不思議そうにこちらを見ている。
「こんな人気のない峠道にホットドッグ屋とはね」と言ってると、友人の一人が「屋台がないぞ!」と騒ぎ出した。
「谷にでも落ちたのか?」と心配になって、屋台があったはずの場所に引き返した。
「確かに屋台あったよな」「あったあった」「客がいたよなぁ」
カップルの男はスーツ姿。女は白いブラウスにピンクのタイトスカート。
そこで、はたと気がついた。
こんな人里離れた山の峠に手引きの屋台車?
あのカップルは歩いて屋台のホットドッグ屋に来たのか?周辺には他に車など停まっていなかった。
首をかしげながらK君たちはそこを去ったという。
唐突すぎてただ不思議な話。
狐に化かされたのでしょうか?それとも異次元のホットドッグ屋が現れたのでしょうか?
屋台のホットドッグ屋なんて変わっていますが、ドライブ中に見かけたらつい寄りたくなりそうです。
最恐話ベスト3
第四十話 女だけに見えるもの
ある一家が父親の転勤の関係で、大阪から九州に引っ越した。
一家は、庭付きのかなり大きな一戸建てを破格の値段で購入した。
引っ越し第一日目の夜。
真夜中に女の泣き声が庭の方からする。
その泣き声は不思議なことに母と幼い姉にしか聞こえない。
母は父を起こして、庭を見てくれるよう頼んだ。
雨戸を開けると、月明かりに照らされて庭の松の木がよく見える。誰もいなかった。
翌朝、父が洋服ダンスの扉の裏側の鏡を見ながらネクタイを締めていると、その様子を見た母が絶叫し、その場にへたりこんでしまった。
声を聞いてやってきた姉も父を見ると腰を抜かした。
鏡の中から白い腕が出てきて、父の首を軽く絞めている。
父が動くと、腕はからみついたまま何メートルも伸びる。
しかし、当の父にはまったく見えておらず、母の話を信じようとしなかった。
引っ越し二日目の夜。
また庭からすすり泣きが聞こえてきた。
母が、面倒臭がる父親を起こして庭を見てもらうと、庭の松で首をくくった着物姿の女性が見えた。
父には何も見えないので母を問いただしたが、うずくまったまま一言も口をきかなかった。
引っ越しから三日目。
母は、もしここを引っ越さないと離婚すると父に訴えた。
しばらくして父は仕事を辞め、一家は大阪に戻った。
九州の家は借家に出したが、誰も長く住むことはなかった。
とうとう借り手がいなくなり、何日かたったある朝。
身じたくをする父の首に、またあの白い腕が絡みついていた。
母は友人という友人に電話をかけ、お祓いしてくれる人を探した。
父は頑として反対したが、娘の異常な怯えぶりが心を動かした。
翌朝、霊能者がやって来てこう言った。
「あなた方、えらいものに取り憑かれはってんねぇ。何をしてこんなんに取り憑かれはったん?」
今までの事情を話すと、霊能者はこう説明した。
それまではあの家に住んでいる人間に訴え続けていたものが、住む人がいなくなったので、持ち主を追いかけて来た。
「家を手放さないと命にかかわる」と言われ、Aさん一家はあの家をかなり安い価格で売り払った。
引っ越してたった3日で、一家を住めなくしてしまう霊のパワーがすごい。
やっぱり異様に安い物件には何かあるんですね~。
第五十四話 8ミリ・フィルムの中の子供
芸術大学に通う学生たちが、実習のため8ミリ映画を制作した。
アクションシーンを池のほとりで撮影したあと、監督と編集を兼ねたS君は、現像されたフィルムを自宅でエディターにかけて編集作業に取りかかった。
作業をしていると、フィルムの右下に白いゴミのようなものが付着しているのに気付いた。
とにかくシーンをつないで一応編集を終えた。
数日後、編集したフィルムを映写機にかけて試写をした。
池のほとりのシーンになると、その場に居合わせた全員が「あっ」と声をあげた。
ゴミと思っていたものは子供の横顔だった。
真っ白い顔をした、おかっぱ頭の女の子。
アクションを演じている学生たちより、はるかに頭が大きい。
それが、微動だにせず右下に存在している。
翌日から、噂を聞きつけた友人たちが、そのフィルムを見るためにS君の家に詰めかけるようになった。
最初のうちは面白がって見せていたS君も、次第にうんざりしてきた。
その頃から、この映画製作に携わった友人たちがケガをしたり事故にあったりするようになった。
S君は何度も映写するうち、なぜか子供の横顔が、だんだんこちらを向いているように見えてきた。
そこで、最初の試写のときにいた友人を呼んで、もう一度見てもらった。
「俺の見たのはこれと違う!」友人は見た瞬間にそう叫んだ。
言われてみれば、確かに最初は真横を向いていた子供の顔が、今は明らかにこちらを向いている。
友人たちの間で連続しているケガは、これと何か関係があるのかもしれない。
この子供の顔が正面を向いたとき、なにか大変なことが起きるような気がした。
S君はフィルムに封印をして押し入れの中にしまい込んだ。
この話には後日談があります。
実はS君は例のフィルムを封印せずに、何度も見続けていたのです。
それは「新耳袋 第五夜」の「第六話 正面」でくわしく書いてあります。
このタイトルだけで何が起こったか分かりますよね。
第九十九話 百物語の取材
京都に住むフリーライターの話。
夜遅くに取材から帰ると、知り合いの編集長から電話があった。
「おい、君。確か幽霊なんちゅうのは信じないと言ってたな。だったら今から言うお寺に取材に行ってほしいんだ」
強引な編集長の言葉に逆らえず、彼は言われた場所にひとりで車を飛ばした。
それは聞いたこともない京都の外れの古寺だった。
そこで今夜、百物語があるのだという。
昔から百物語を達成したとき、何かが起こる。それを取材しろ、とのことだった。
変な取材もあるもんだと思ったが、夏の時事ネタの1つかと思い、田舎道を走った。
古寺に着くと、ろうそくの灯だけでよく見えないが、本堂に10人ほどの人間が集まって車座になって正座している。彼は本堂のすみに正座した。
最初のひとりが、こう口火を切って百物語が始まった。「私は、こうして死にました」
話の内容は覚えていないが、その言葉だけは覚えているという。
そのうち、彼は昼間の取材の疲れもあってウトウトし、はっと気がつくとあたりはシーンと静まり返っていた。
「あの…終わったんですよね?何も出ませんでしたよね?」とたずねるが、誰も何も言わない。
写真を撮ろうと立ち上がりかけると、10人のシルエットがニヤァと笑った。
「何かがおかしい」フリーライターははじめてそう思った。
色々な疑問がわきでた瞬間、自分が雨に打たれて、真っ暗な墓地の真ん中に座っていることに気付いた。
急いで自宅に戻り、さっそく編集長に連絡した。
「編集長、やっぱりありました。ありましたよ!」と興奮して先程の出来事を報告した。
「今何時だと思ってる?取材?わしゃ、そんな電話しとらんぞ」と電話を切られた。
狐が人をだますことができるなら、死んだ人間にはもっと色々なことができるはずだ。
だから、彼は怪異を信じるようになったという。
初めての「新耳袋」の最終話にふさわしい話です。
「狐が人をだますことができるなら、死んだ人間にはもっと色々なことができるはずだ。」という一文がかなり怖いです。
幽霊さん、怪談を鼻で笑うような人間をもっとこんな目に合わせてやってください!(錯乱)
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