ブラピ、キングの「ジョウント」映画化するってよ

S・キングのSF短編「ジョウント」映画化 ブラピの製作会社が権利を獲得
2015年3月24日 映画.com

スティーブン・キングの短編小説「ジョウント(The Jaunt)」の映画化権を、ブラッド・ピットの製作会社プランBが獲得したと、米Deadlineが報じた。
すでに、ホラー映画「MAMA」で知られるスペイン出身のアンドレス・ムシェッティが監督に起用されたという。キャストは未定。

このニュースを聞いて思ったのは、
「ブラピ、一体何考えてこれを映画化したいと思ったの!?」である。

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「ジョウント」って何?

「ジョウント」は、世界的ホラー作家スティーブン・キングが1981年に発表したSF短編。
日本では、扶桑社ミステリー文庫「スケルトン・クルー2 神々のワード・プロセッサ」に収録されている。
ジョウント収録 スケルトン・クルー2 神々のワード・プロセッサ「ワード・プロセッサ」だよ、「ワード・プロセッサ」!時代を感じる…。
現行の文庫本のデザインは変わっちゃったけど、表紙イラスト、巨大なワープロからビビビッと謎の光が出てアナクロ感がいいね!

私は昔にこの本を購入して、かなり好きで愛読している。
だからこそ、ブラピが「ジョウント」を映画化しようとする理由が分からない。

ブラピのセンスに驚きついでに「ジョウント」とその収録本「スケルトン・クルー2 神々のワード・プロセッサ」を紹介したい。

「ジョウント」のテーマは「発狂」

「ジョウント」のテーマは、
「人は精神だけの存在になって、どれだけの間正気を保っていられるのか?」
一時期、ネットで話題になったマンガ「5億年ボタン」と少しテーマが似ている。
あっちはまだ身体や空間とタイルがあっただけまだマシ。

人間の精神を肉体から分離させて、気の遠くなる時間、何万年、いや何億年を経験させるとどうなってしまうのか?
普通に考えたら「発狂」以外にあり得ない。
想像するだけでも不気味で気が滅入るテーマを、キングは丁寧に描く。

「ジョウント」あらすじ

西暦2300年。
ジョウントの発明により、人類は地球外惑星から資源を確保していた。
ジョウントは、どんな物質もナノセカンドで瞬間移動させることができるテレポーテーション装置であり、今や移動手段として世界中で利用されている。

主人公マーク・オーツとその家族は、火星への移住にジョウントを利用するため、コンコースで順番待ちをしていた。
マークは、子供たちが初めてのジョウントに不安にならないよう、ジョウントの歴史を聞かせる。
好奇心いっぱいで父親の話を聞く、息子のリッキーと娘のパトリシア。

その一方で、マークは子供たちには絶対に話せない、ジョウントの秘密を知っていた。
ジョウントは物質には一瞬の出来事だが、精神には永遠に近い時間になってしまう。
生物が意識のある状態でジョウントをすると、発狂し死に至る。
この事実をオブラートに包みながら子供たちに説明するマークだったが…。

「ジョウント」ネタバレ

ジョウントについての話を聞き、リッキーは好奇心で「永遠に近い時間」を経験したいと思ってしまう。
そして、リッキーはわざと意識がある状態でジョウントを体験する。
主人公マークがジョウントから目覚めると、そこには発狂した息子リッキーの姿があった。

かつての息子はジョウント用寝椅子で跳ね上がり、身をくねらせていた。
雪のように白い髪を垂らし、角膜が気味の悪い黄色になった、信じがたいほど年老いた眼を持つ十二歳の少年。

老いと若さが同居した脚は痙攣し、小刻みに揺れている。
鉤爪じみた手を叩き、より合わせ、空中に躍らせる。
突然、彼の息子だった生き物は手をおろし、顔に爪を突き立てた。

「意外と長いよ、パパ!意外と長い!
ガスを吸わされたとき、息を止めたのさ!
見たかったんだよ!ぼくは見たよ!見たよ!
意外と長いよ!」

それは、ジョウント用寝椅子の上でひとしきり高笑いと金切り声を響かせたのち、いきなり爪を目玉に食い込ませた。
回復室は今や、騒然たる鳥小屋と化していた。

息子の言葉はなおも続き、絶叫が始まったものの、マーク・オーツの耳には届かない。
そのときには彼自身が絶叫していたからだ。

12歳の子供が発狂する映画なんて誰が観たいのさ!?

純粋な子供の好奇心が、取り返しのつかない悲劇を生み出す。
何の救いもなく小説「ジョウント」の物語はここで終わる。

こんな鬱展開、そのまま映画にしてもごく一部のマニアにしか受けないだろう。
観た後、ただただ気分が滅入る映画…。
ファミリーは絶対ダメ、カップルで観たらお通夜状態。
ブラピ、どうやって採算取る気や…?

「発狂」がテーマの、救いのない短編小説をどうエンターテイメントに落とし込んで行くのか、スティーブン・キングファンとしては楽しみなところ。
いつの間にか制作中止になったりして…。

「神々のワード・プロセッサ」の他の短編もサラッと紹介

せっかくなので、他にも収録されている短編も紹介したいと思う。

パラノイドの唄 Paranoid:A Chant
題名通り、被害妄想になってしまった人の詩。短い作品。
神々のワード・プロセッサー Word Processor of Gods
高校教師で副業で作家をしている主人公は、事故死した甥から手作りのワープロをプレゼントされる。
そのワープロは、打ち込んだ文章を現実にできる恐ろしい力を持ったワープロだった。
オットー伯父さんのトラック Uncle Otto’s Truck
かつての共同経営者をトラックの下敷きにして殺した男が、そのトラックを恐れる話。
オットー伯父さんが少しずつ狂っていく過程をユーモラスに描いている。
しなやかな銃弾のバラード The Ballad of Flexible Bullet
雑誌の編集者が、頭がおかしくなった小説家に話を合わせているうちに、自分もおかしくなってしまう話。
アル中経験者、キングならではのアル中のリアルな描写が冴える。
猿とシンバル The Monkey
忌まわしい猿の人形がシンバルを鳴らすと身近な誰かが死ぬ。
主人公が子供の頃に処分したはずの猿が、中年になってから姿を現した。
家族を守るため、主人公は邪悪な猿の人形と再び対峙する。

こうして「神々のワード・プロセッサ」の内容を振り返ると、短編6作品のうち、ジョウントを含めた4作品が発狂や狂気に関わる話だということに気付いた。

とても楽しい気分になる短編集ではないけど、ストーリーとしては面白いものばかり。
短編で気軽に読めるので、スティーブン・キング入門としてもオススメです。


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