オルゴール収録「新耳袋 第五夜」戦争と落語の怪談も
「新耳袋 第五夜」には、新耳袋の中でもかなり怖い『オルゴール』という怪談が収録されています。
『オルゴール』のあらすじは下で紹介しています。
「新耳袋 第五夜」の見どころといえば、「戦争」と「落語・噺家」の怪談。
戦争の怪談は、やるせなく悲しいものが多く、色々と考えさせられます。
また、文庫版の後書き曰く、取材者は文庫版化までに半数以上がお亡くなりになったそうです。
表現にも色々な配慮をする必要があったようで、単行本では「英霊」という言葉があったのに、文庫版ではそれがカットされています。
一番伝えなければいけない話がこういった表現の壁に阻まれて発表できないのは残念です。
でも、こういった配慮に心をつくすことろが「新耳袋」らしいともいえます。
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落語好きは是非チェック!噺家怪談
著者二人は関西出身で上方落語ファン。
上方落語の表現方法やストーリーの組み立て方が「新耳袋」の元になっているそうです。
章の半分は38歳で交通事故で亡くなった林家小染さんの話。
小染さんの人柄なのか、彼にまつわる話は怖さや不気味さがなく無邪気な話が多いです。
残り半分は色々な落語家の話が紹介されています。
後で紹介しますが「虎渓の三笑」は亡き二代目露の五郎兵衛と桂米朝が体験した、ものすごく怖い話です。
「新耳袋 第五夜」の感想
戦争にまつわる話と噺家に関する話の他に「第五夜」はほのぼのする話が多いです。
意外に思うかもしれませんが、ペットや植物との絆を感じるいい話も収録されているんですよ。
気になる方はぜひ本編を読んでみてください。
- 第一章 第一夜にまつわる六つの話
- 第二章 訪ねくるものたちの八つの話
- 第三章 建物にまつわる十四の話
- 第四章 路上で出会った十一の話
- 第五章 狐狸妖怪に出会った六つの話
- 第六章 百物語にまつわる五つの話
- 第七章 得体の知れないものの十六の話
- 第八章 噺家に関する六つの話
- 第九章 塞がれた空間で起こった四つの話
- 第十章 絆を感じる十四の話
- 第十一章 戦争にまつわる九つの話
「新耳袋 第五夜」ハイライト
「第五夜」で印象深い話を紹介します。
面白い話
第五十一話 翡翠色
Tさんが数名で高野山に登った。
女人堂という御堂から山道で4、50分ほど「まだかまだか」と息を切らせて登っていると、頂上から太鼓の音が聞こえ出した。
見上げると頂上のあたりに翡翠色の大宮殿のようなものが見える。
「さすが高野山。すごいものがある。」とみんなで驚いた。
登りながら次第に木々の間から大宮殿が大きく近く見えてきた。
ようやく山頂に着いたが、翡翠色に輝く大宮殿などどこにもなく小さな弁天堂があるだけだった。
うーん、高野山のロマン!
まぼろしの大宮殿ですが、見えただけでご利益がありそうですね!
最恐話ベスト3
第十七話 修学旅行
Uさんが三重県に修学旅行に行ったときの話。
Uさんたちは、古い旅館の旧館の部屋をあてがわれた。
夜中にトイレに行こうと廊下に出ると「ギー、バタン。ギー、バタン」という音が男子トイレから聞こえる。
「誰かいるのかな?」と思ったが、トイレの電灯は消えていて中は真っ暗。
電灯のスイッチを入れたが、もちろん誰もいない。
ところが大便用の3つあるドアのうち真ん中のドアがギーと勝手に開く。
いっぱいに開きると急にバタンと閉まる。
Uさんは尿意も忘れてしばらくそれを見ていた。
30回ほど見た時、ドアがギーと開くと個室の中から女の頭が出てきた。
床から30センチほどの高さで真下を向いた女がゆっくり水平に出てくる。
長い髪が床を引きずっている。
肩、腰まで出てくると誰かに引っ張られるように中に引っ込む。
そしてバタンとドアが閉まる。
我に返ったUさんは部屋に逃げ帰り、頭から布団をかぶって朝まで震えていたという。
Uさんは入り口でドアの開閉をしばらく見ていて良かったですね。
個室のそばで女を見てしまったら腰を抜かして動けなくなりそうです。
第六十話 オルゴール
Sさんが情報誌で、高校時代の美術の先生の個展があるのを知った。
会場で久しぶりに先生に再会したのが縁で、先生の家に遊びに行くことになった。
先生は立派な2階建ての一軒家にひとり暮らしをしていた。
色々と話をしているうちに、先生は、旅先の古道具屋で購入したオルゴールから男の声のようなものが聞こえると言い出した。
「ちょっと聴いてみるか」と先生は一抱えもある大きくて立派なオルゴールを持って来た。
1度目は何もなかったが、2度目。男のうめき声が聞こえてきた。
3度目。また聞くと、さっきよりも大きくて鮮明な声が聞こえる。
「もういいですよ、先生」とSさんが止めるのも聞かず、先生はまたネジを巻く。
そしてこれまでで一番大きなうめき声が聞こえた瞬間、天井から誰かが走り回るようなすごい音がして家が揺れた。
先生がオルゴールを止めると2階の音もぴたりとやんだ。
怖くなったSさんはすぐに帰ろうとしたが、先生にずいぶん引き留められた。
「先生、これもう2度と聴かないでください」とSさんは言い残して家を出た。
なぜ先生はこんな怖いオルゴールを持ち続けているのでしょうか?
先生とオルゴールの出会い方も何か特別な因縁がある気がします。
第七十二話 虎渓の三笑
昭和28年ごろのこと。
人間国宝となった桂米朝も当時はまだ若手で、知り合いの部屋の家賃を折半し、露の五郎兵衛と同居していた。
ある日、桂米朝がある事情から「虎渓の三笑」を画題にした掛け軸をもらってきた。
この掛軸は、ひと目見ただけでゾッとするほどの悪相の掛け軸だった。
この日からふたりの仕事がキャンセル続きになりだした。
あまりのことに、さすがの二人も気持ち悪くなった。
掛け軸を持って、行きつけのバーで「この絵、誰ぞもらってくれへんやろか」と話していると、バーのママが引き取ってくれることになった。
すると翌日から、キャンセルになっていた仕事が復活しはじめ、新しい仕事も舞い込むようになった。
1週間ほどして例のバーに行くと、ママが青い顔をして、あの掛け軸を返したいと言ってきた。
借金ができたり、子供が急病になったりして大変だったのだという。
またあの掛け軸が戻って来てしまった。
二人が途方にくれて歩いていると、交番のお巡りさんに声をかけられ、ひょんなことから掛け軸を見せろという話になった。
「わかりました。お巡りさん、見せます。そやけど僕らはこの絵、見たくないんです。そやから向こう向きに絵を広げますさかいに、勝手に見とくなはれ」
お巡りさんは、掛け軸を見ると二人を行かせてくれた。
やっと開放されたが、掛け軸を持ってこのまま家には帰れない。
ふっと見ると、屋台のラーメン屋があったので、ラーメンを注文して相談していると、ラーメン屋の親父が掛け軸を引き取ってもいいと言ってくれた。
二人は掛け軸をラーメン屋の親父に押しつけて、逃げるように帰った。
あの掛け軸は二度と戻ってくることはなかった。
しかし、あのお巡りさんは翌日から見かけなくなった。また、掛け軸を引き取ったラーメン屋もじきに潰れた。
禍々しい力をもった掛け軸に翻弄される若き日の名噺家。
「新耳袋 第五夜」にふさわしいハイライトです。
本編の話はもっと詳細で会話も多く、掛け軸をめぐる緊迫したやりとりが伝わってきます。
それにしても、一体この掛軸は誰が描いて、どんないきさつで流れてきたんでしょうか。
お巡りさんと引き取ったラーメン屋の親父は、一体どうなってしまったのでしょうか?
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